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詩と思想、あるいは文学と政治

 投稿者:管理人iPad 3182  投稿日:2019年 6月19日(水)21時51分4秒
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     伊東静雄を発見してその詩歌論を展開したかったが、今回は特集の《8・15の青い空  戦争と文学》の方にかまけて詩歌論までいかず周辺の人物論のエッセイで終わった(「群系」42号・6月下旬刊行)。だが、詩人的資質では萩原朔太郎に次いでその詩質(ポエチカ)に感動共感したのであり、それが自身の身の内の何によるのか考えたく思っている。

   この数年、自分の中で詩的なものと思想的なものが混雑してきて、パトスなのかロゴスに由来するのか截然としなくなってきた。詩的なものとは文学といいかえ、思想的なものとは政治といいかえてもいいかもしれない。実に戦前においてはその二つは截然と分け難くあって、ある文学者たちは政治思想家、あるいは政治行動者といってもいいように思えた。それは具体的には保田與重郎と蓮田善明を典型的に指しているのだが、彼らにあっては、文学と政治が、もっと言えば詩と思想が融合化していた。いな一つのものだったと言えよう。

   当方は長く、文学と政治は二つの異なった内容・志向を持つものと思料してきた。政治は物質生活に直結する権力的な営為、文学は精神生活に限った内面的な営為、いわゆる戦後文学はそうしたきっ線をつたいつつ言語の営みをしてきたものと思っていた。それゆえ文学者は、政治的発言はあっても、極力自己の言語表現の中で、つまり自分の文学の中で現表するものだと思っていた。

   だが、保田や蓮見の文学・行動を瞥見すると、詩も思想も同じ、同根の人間情熱だと思うようになってきた。いわば、万葉集や古今集、新古今集に感ずること、平家や楠木父子の死を受容することは、それらに共感すること、古典など伝統を背にすることで、いま現在の生き方まで規定出来ているのだ。
   従前なら、これは復古論・国粋主義だ、身に寄せるべきでない、という自身の反撥力があったのだが、この数年そうした自身のそういう〈思想〉がやや弱くなってきて、そういう戦前の考え方(生き方)を十分に斥け得なくなっている自分を発見する。

   「自由と民主主義」ー。そうした概念の抽象性を感じてきたものか。文学史的に言えば、あれだけ我が身に寄せて思ってきた「近代文学」誌のありようが、いま今日ではその有効性が信じにくくなってきたのである。
   これは21世紀になった今日になってまで、戦後直後あるいはその後二〇年ほどは有効だった「戦後的思惟」がそれ以降、だんだんその効力を失ってきたということかもしれない。実際、「近代文学」が昭和38年に休刊されて以来、その意義への疑問も同人内部から出ていた(佐々木基一の内部批判)。実際その後、いわゆる戦後民主主義は右派からの批判よりも、内部の一派からの瓦解が始まりつつあった。学生闘争の盛り上がりとその混迷・自壊がその大きな例である。
   以降、世界的な非思想傾向、資本・技術優先、もあったゆえか、この国でも前世紀末頃から、戦後民主主義、平和思想は、軟弱とされてきたのである。

   当方自身、以前は保守思想の権化、と敵対視していた江藤淳を今世紀以降(江藤死後)、たいへん文学的(生命的)に豊かな文学者と感じるようになってきている。その江藤が実は生前、伊東静雄を詩人中でも非常に高く評価していたのを発見して、わが「文学」の正しさを実感している今日此の頃なのである。

   先月(5月)、加藤典洋氏が亡くなった。江藤淳をよく読み込みながらそれを乗り越え、戦後的思想の有効性を考え続けた批評家である。いわゆる政治思想家、歴史家なら、「戦後思想」は論じ安かったと言えるかもしれない。丸山真男や色川大吉、鶴見俊輔なら論じ得る立場であったろう。しかし文学者はいかがか。ほとんどが保守思想の立場の中、加藤典洋氏は頑張った。しかし、その「敗戦後論」は評判が芳しくなかった。議論がいろいろ、視点・論理で難渋と評されたのだった。実際当時、自分も敗戦後論を論じようとしつつ解説で終わった苦い思い出がある。

    いま、自身の内部にわだかまりつある、文学と政治、の問題。これを自身に納得のいくよう考えていくには加藤氏の著書を読んで考えていくしかないか、と思っている。

  https://blockquotemaker.com/?p=10956

   加藤氏の死を多くの人は、「ただ悲しい」という表現で受け止めている。これは文芸評論家・思想家の死に対してはきわめて別格の扱いである。そこには彼への愛しさがうかがわれる。当方も、悲しい。ー
 
 
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