teacup. [ 掲示板 ] [ 掲示板作成 ] [ 有料掲示板 ] [ ブログ ]


スレッド一覧

他のスレッドを探す  スレッド作成

新着順:149/1701 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

「風の道」第七号(東京都)① 間島康子「隣家」は落ち着いた潤いある文体に味

 投稿者:根保孝栄・石塚邦男  投稿日:2017年 6月18日(日)06時03分50秒
  通報 返信・引用 編集済
  ・作家の葉山修平ゆかりの雑誌だが、彼が逝去したあとその遺志を継いで教え子が再びスタートしたと編集後記にある。

・大森盛和「歳時記」。過疎化した村の実家に久しぶりに帰ったのは、亡くなった父母の法要のためだが、主人公の生家には離婚した甥が一人で住んでいる。仏壇にお参りに立ち寄るといつも甥は留守で、半ば朽ち果てている生家のさまを見ると、子供の頃を思い出す。父が大酒をあおった末に風呂で急死、姉が結婚相手を連れて帰省したとき、中学生だった主人公はどう振る舞っていいのか分からず、隠れて覗いていたこと、大叔母の思い出、母屋の大改修のことなど、走馬灯のように細やかに描写する筆筋。

・吉田慈平「鳴りつる方を眺むれば」は、題名が歴史仮名つかいなのは珍しい。寄る年波には勝てず耳鳴りに悩まされるようになり、髪の毛も薄くなった。今日の予定は・・と考えてみるが夕刻まで何もない・・。馴染みの喫茶店へ場所を移して同人誌の原稿でも書こうかと思いいたったとき電話が鳴った・・というような描写で始まる一人称小説。

・間島康子「隣家」は、隣の家の時代の移り変わりを主軸に、主人公由紀子の会社勤め、結婚、帰省の話を紡ぐ。「平凡な日々に、大っぴらに話すことでもない自然のささやかな営みを静かに目に留めていた」という表現があるように、通勤途中のバスの車窓から見る風景から始まるのだが、これが一服の落ち着いた風景画のように描写されている筆筋が光る。言葉が原稿用紙にしっかり定着している文体が何よりも買える。
 田舎の跡取り息子だった父だが、弟に家督を譲って町に出て、地味な暮らしをし家を建てたことなど、主人公の由紀子の目線から隣の火事の被害を受けたこと、結納が整ったばかりの由紀子の着物は無事だったことなど。間もなく嫁いだ由紀子であったが、十年後久しぶりに実家に帰ってみると隣の家の雨戸はすべて閉じられて寂しい気配が漂っていた・・。聞いてみると離婚したということを聞いた・・。主人公由紀子の実家のエピソードを中心に巧まずにさらりと描いた抒情の味が光る。この作者、ニ、三読んだ記憶があるが、どの作品も落ち着いた文体に膨らみのある心象の影を描写できており味がある作者である。いつも地味な私小説的素材なのだが、詩人らしい潤いある言葉の展開、描写に勝れているので、五十嵐勉さんの雑誌や全作家の雑誌レベルの賞なら一番近い位置にあるのではないか。地味だが、芥川賞レベルの心象、風景描写を紡ぐ作家である。

  ・風の道通り過ぎたる彼のひとは片翼のみの飛行哀しき  石塚 邦男

 郵便ー116-007 東京都荒川区南千住8-7-1-1105 吉田方「風の道同人会」



 
 
》記事一覧表示

新着順:149/1701 《前のページ | 次のページ》
/1701