teacup. [ 掲示板 ] [ 掲示板作成 ] [ 有料掲示板 ] [ ブログ ]


スレッド一覧

他のスレッドを探す  スレッド作成

新着順:196/1701 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

「星灯」4号(東京都)② 島村輝、佐藤三郎、北村隆志の新鮮で繊細な力作文芸評論に感銘

 投稿者:根保孝栄・石塚邦男  投稿日:2017年 4月14日(金)03時53分59秒
  通報 返信・引用 編集済
  ・かなり間をおいての批評書き込みになったが、どうしても触れたい作品があった。それは、島村輝、佐藤三郎、北村隆志の各文芸評論の力作についてである。

・島村輝「若き神々の黄昏ー(オリンポスの果実)とその時代」は、1932年のロス五輪に競艇選手として出場した田中英光の代表作「オリンポスの果実」を主題に、作者と作品の時代的背景を探査した文芸評論で、着眼が新鮮。小説の主人公坂本は、ロス五輪の競艇チームの一員で、陸上女子選手に恋心を抱くという青春小説。英光の兄が共産党のシンパであったことから影響され、「幼いマルキスト」の傾向がある青年なのだが、この作品は、こうした作者の体験も加味した主人公として設定され、オリンピック参加の責任感に乏しい若者として描かれている内容。評者の島村は、この小説が書かれた1940年時代の党生活者の揺れる心情なども作品の中から冷静に分析しているところが注目される論考である。田中英光が20歳の時同人雑誌に発表した作品を読んだ太宰治が、「君の手紙を読んで泣いた男がいる」と田中に手紙を書いた話は、あまりにも有名だが、党を巡って揺らいでいた当時の太宰と田中の心情的共通項などの微妙なところにもメスが入っている論考ではあった。

・佐藤三郎「一場の春夢-伊藤ふじ子と(党生活者)」は、27歳の小林多喜二と20歳の女優の伊藤ふじ子との出会いから説き起こし、二人の交流の足取りを丹念に拾って行く。そして、多喜二の作品に表われたふじ子像を多喜二の作品から丹念に拾いとる。多喜二とふじ子の同棲の心の葛藤を作品の描写の中から細やかに抽出し、ふじ子像を微細に際立たせているところがユニークである。また、ふじ子は多喜二の妻田口タキと対比して論じられていて、多喜二が私生活と党生活者とを使い分ける苦しみに直面していたリアルな現実も解析しているところが、新しい見方であろう。小林多喜二文学の脇役の女性・伊藤ふじ子の存在から、小林多喜二文学と党生活者としての苦渋を浮き彫りにした着眼と細密な分析は刺激的だ。

・北村隆志「加藤周一ノート③ー西洋見物と雑種文化論」は、大学で医学部に居ながらフランス文学に大きな関心を寄せていた加藤周一の戦後間もなくのフランス留学を経済面で支えていた西日本新聞の功績に触れているほか、加藤周一のフランス語の学習方法なども紹介、日本の文化を<雑居文化>と言った加藤周一の卓見の裏面を詳しく解析しており、北村の加藤周一に対する並々ならぬ傾倒ぶりが情熱的に描かれている論考。そして、加藤周一を日本の第一級の文化人・文学者としている北村のその理由と見解を鮮やかに論理立てて解析、説明している筆筋は、最近にない鋭い観方であった。読んでいて実に面白く感銘深いものであった。日本の知性を代表した加藤周一という文学者の偉大さを、改めて再認識できる卓越した論考である。今後、どのような展開を見せるか、その筆筋の行方に興味津々である。

・小説は三編。未だ書き始めと見えて、初々しい筆筋。初めての書き手の登壇もあって、特別に紹介したい。

・三浦協子「サルと闘ったはなし」エッセイ的題名で、実際、小説というよりも体験記的筆筋。勤めていた労働組合を解雇され、夫と言い合いになった末に離婚した<わたし>は組織のごたごた騒ぎに疲れて、下北半島の猿を見に行こうと思い立ち、現地に入ったのだが・・という話なのだが、猿の群れのボスと睨み合って撃退する体験をする結論。職場の失敗、離婚の出来事と猿を見に行く動機を、もう少し巧く結びつけてオチをつくる小説作りを知ると良い作品になりそう。身近な人に意見を求めて、何度も書き直す根気が大事である。

・野川環「オリ」は、70過ぎて住宅取り壊し現場の警備の仕事をしている勝子は、かつて息子夫婦と孫の四人暮らしだったが、育児放棄し、家事もしない嫁がいて、孫の世話、家事一切を手がけていたが、ついに嫁に追い出される羽目になり、今は侘しい一人暮らしをしている。しかし、孫のことが心配だ。そんな老いた一人暮らしの女の心境を描いているのだが、文才がありそうなので、今後期待できそう。

・渥美二郎は「町屋のイエス」「24の一文小説」の二編だが、読書会などの人間模様を丁寧に描こうとした「町屋のイエス」は、もう少し粘ると小説の形になりそうな素材だ。








 
 
》記事一覧表示

新着順:196/1701 《前のページ | 次のページ》
/1701